回顧録③ 再会


後ろめたさを感じながら、

タロットを手にした思春期から20年弱。

大人になった僕は、

僕は祖父の仕事を継ぐことになった。


祖父の仕事は富山の薬売り。

昔ながらの行商スタイルで、

自宅のある富山から、東北地方や北海道にまで出かけていき、

宿に寝泊まりしながら、その土地の家庭を訪問して薬を買ってもらう仕事だ。

自宅のある富山には1年のうち4ヶ月しかいない。

8ヶ月は、東北や北海道で仕事をして過ごす。


そんな行商生活を60年間も続けてきた祖父が、

必死の思いで開拓した顧客は1700件にもなっていた。

そのお客さんのお宅を1年かけて、1、2回づつ訪問してまわることになる。


ほとんどのお客さんは世代をまたいだ長年のお付き合いで、

もはや家族のように扱ってもらっていた。

飲んでいる薬もだいたい決まっていて、集金額も安定している。

前回の訪問時に置いていった薬箱の薬が、どれだけ減っているかをチェックし、

飲んである分だけ代金をいただく。

先に使ってもらって支払いは後。

おかげで、大した能力もない僕も、

苦労とかストレスとかを感じずに行商生活をすることができた。



自営業を営む、あるお客さんを訪問した日のこと。

事務所の壁に貼ってあった、今年の運勢表のようなものが貼ってあるのを見た。


「太歳月徳合大将軍...」

見慣れない言葉がたくさん書かれたその表は、

今になって思えば、九星気学と陰陽道をかけあわせた、

日本独自の占いだった。

なんかよくわかんないけど、カッコイイ。。。

思春期に感じた、神秘的でよくわからないものへの憧れ。

僕にとっては、どこか懐かしいような感情だった。

そんな世界観に20年を経て、再び出会うことになった。


せっかくだから、会話のネタにしようと、

これ、なんか凄いですね。なんの表ですか?

と聞くと、

これで、今年の良い方位とか運勢がわかるんですよ

とのこと。

生まれた年によって運気が違うから、

この表と照らし、家を改築や旅行の方角を決めるということらしい。

表に基づき行動すると、病人が治ったり、商売が上手くいったりするらしい。


後日、祖父に話すと、祖父は信じておらず、

思春期にタロットを経験済みの僕は、

すげー、超能力じゃん

と仕事を忘れ、目を輝かせてお客さんが自慢げに語る話に感動していた。


当時、僕の年齢も30を過ぎていたが、根拠など関係なく純度100%の好奇心がうずいていた。

思春期に憧れた孔雀王やタロットの世界が、今、現実に、自分の目の前に現れたのだから。


その日以来、運気とか方位とか今まで全然気にしてなかったが、

やっぱり、けっこう意味あるんじゃないの?

と思うようになった。


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